
子どもの頃、親や学校の先生から「人の話はちゃんと聞きなさい」「人の話は途中で遮っちゃいけません」と言われた経験ありませんか?
私の遠い記憶を遡ると、学級会や道徳の時間に、しょっちゅう言われていたような気がします。
子どの頃から言われているのだから、大人になったら、さぞ立派にできるだろう・・と思いきや、ビックリするほど話の聞けない人が多いですよね。
私は国会中継や討論番組が嫌いなのですが、それは、発言している人の話を最後まで聞かずにかぶせて話す人が多いから。
「いやいや、ちょっと待ってよ。私はあの人の話を聞きたいのに、何で最後までちゃんと聞かないでヤジを飛ばしたり、自分の話をかぶせたりするのさ!!!」とイライラするのです。
もっと身近に目を移せば、会社の中でも、こういうことってありますよね。
その中でも特に多いのが「上司が話しを聴いてくれない」という話。
特定の会社だけの問題ではなくて、どこの会社に行っても必ず聞く話です。
そして、部下の立場の人は「上司は話を聴いてくれない」と言うんだけれど、管理職に聞くと、「自分は話を聴いている」と思っているんですよね。
このズレも相当に大きい。
で、実際のところどうなの?と言うと、私はやっぱり「聴けない」管理職が多いなと思っています。
子どもの頃から「人の話を聞きなさい」と言われているのに、どうしてこうなってしまうんでしょう?
そこには3つの問題があるんじゃないかと思うのです。
- 管理職自身が「聴けていない」ということに気づかない
- 「聴けている」と思っても、実は自分の都合の良いように聞いている
- 管理職が自分の話を聴いてもらえる経験をしていない(聴いてもらえる場所がない)
1.管理職自身が「聴けていない」ということに気づかない
最近、1on1を取り入れる企業が増えていて、多くの会社で導入する前には「導入研修」をしています。
何をするかというと、簡単に言えば「傾聴スキル」と「質問スキル」の練習をするわけだけれど、傾聴スキルの研修をして、初めて、自分が「人の話を聴く」ことが出来ないと気づく人が大勢いるのよね。
以前いた会社でも同様でした。
最初はね、みんな「出来る」と言うんですよ。
でも、「5分間、相手の話を聴いてください。相槌を打つのは良いですが、質問をしたり、自分の意見を言ったりすることは禁止です。とにかくひたすら相手の話を聴いてください」
というワークをすると、半数以上の人ができません。
最初は、黙って聞かなくちゃいけないと頑張るのだけれど、2〜3分もすれば
「えっ?それって◯◯じゃないの?」
「私は◯◯だと思うよ」
「あー、そうそう。あの時、こんなことがあったよね」
という声があちこちから聞こえてくるのです。そして、話している本人は、自分が話していることに気づかないんです。
「今、話してますよ!」と他者から指摘されて、初めて「あっ」と気づく。
それぐらい無意識なんですよね。
もし、部下から「話を聴いてくれない」と言われているのに、自分は話が聴けていると思っているなら、一度、『5分(できれば10分)相槌を打つ以外は、ただ黙って相手の話を聴く』をやってみてください。
できれば、観察役の人がいると良いのですが、もしいなければスマホで録音すればOKです。
多分、途中で口を挟んでいる自分自身に気づくと思いますよ。
2.「聴けている」と思っても、実は自分の都合の良いように聞いている
いやいや、5分相手の話を聴くワークをやったけれど、自分はちゃんと聴いていましたよ!という方で、それでも部下から「話を聴いてくれない」と言われているなら、聞いているフリをしていることが多いです。
聞いているフリと言うと聞こえが悪いのですが、部下の言葉をそのまま受け止めているのではなくて、管理職の都合の良いように解釈してしまっているんですね。
これは、自分の中にある答えが正しい、自分の価値観と相手の価値観は一緒だと思っていると、よく起こります。
「でも、それは違うでしょ?」
「いやいや、これは◯◯じゃなくて××だよ」
「あー、そうそう、分かる分かる!」(と言いつつ、部下の言いたいこととズレている)
最後まで話は聴くけれど、聞き終わった途端に、上記のようなことを言うパターンですね。
これをやると部下は、やっぱり「上司は話を聴いてくれない」と思います。
「話を聴く」というのは、ただ聞けば良いわけではありません。
部下が何を言いたいのかを汲み取ろうとすることが大事です。
自分の理屈や自分の解釈だけで話を聞くと、噛み合わない会話を続けることになる可能性が・・・
だから、勝手に解釈しちゃダメなのです。
「それは、◯◯ということ?」
「あなたは××と考えているんだね。でも、△△という考え方もできない?」
自分の解釈や自分の考えを押し付けるのではなく、部下と対話する、部下に確認するという意識を持つだけでかなり変わるはずです。
3.管理職が自分の話を聞いてもらえる経験をしていない(聞いてもらえる場所がない)
1の問題も2の問題も、管理職自身が自分の話を聴いてもらうという経験をしていないことが、大きな要因ではないかと思うのです。
自分も話を聴いてもらったことがない
自分も話を遮られていた
自分も話を勝手に解釈されていた
だから、自分が管理職になって、「部下の話を聴いて」と言われても、どうやっていいのか分からないのではないかな。
逆に自分がちゃんと話を聴いてもらった経験がある管理職は、部下の話を聴くのも上手だと思うのです。
私は正社員時代から、社長や役員を始めとする管理職の話を山ほど聴いてきました。
何か困ったことがあると、ランチや夕飯に誘われて、あれこれと悩みや考えていることを聴くわけですが、それはそれは、皆さんよく話します。
立場が上になればなるほど、これでもか!というぐらい、ご自身の思いを話されるんですよね。
それって、普段、聴いてくれる人がいないからなんだろうなと思うのです。
人の話を聴くよりも、自分の話を聴いて欲しいと思うもの。
だから、まずは管理職自身が、否定されずに話を聴いてもらう場所を作ることが大事なんじゃないかな。
私は管理部門の部門長という立場上、社長や役員の話も聴いていましたが、管理職の話を聴くのは、部下の役割ではないからね。
管理職の自慢話や愚痴を部下が延々と聞かせるなんて、ストレス以外の何物でもないですから。
中間管理職であれば、その上の管理職が話を聴くのが、本来の筋だと思います。
ただ、中間管理職のさらに上の管理職が話を聴けるのか?と言われれば、残念ながら、やっぱり話を聴ける人は多くありません。
それに上の立場になればなるほど、自分の上役には話をしにくいという人もいます。
そういう場合は、費用は発生するけれどプロにお願いするのが一番良いと思います。
最近、管理職でコーチをつける人も増えているけれど、「自分の話を聴いてもらう」ことの重要性を感じているからじゃないのかな。
自分の話をきちんと聴いてもらえることで、自分がどう感じたのか、自分がどう変わっていったのか、自分にとってどんなメリット/デメリットがあったのか。
それを自分自身が体験することで、どうやって部下の話を聴けば良いのかも分かるようになると思います。
管理職こそ、自分の話をきちんと聴いてもらえる機会を定期的に作る必要があると思うし、会社がその場所を準備する必要があると思いますよ。
会社では準備してくれない、自分の話をきちんと聴いてくれる人が身近にいないと言う方は、いつでもいらしてくださいね。