
レディー・ジェイン・グレイの処刑
ポール・ドラローシュ画
この絵を見たことがある方も多いかもしれないですね
上野の森美術館で開催されていた「怖い絵」展で展示されている絵画です
そして、私が昨日開催したセミナーの題材でもありました
もちろん、私が美術評論をするセミナーじゃないですよ(笑)
昨日開催したのは、「コミュニケーション力をアップする」ためのセミナー
セミナーでは、絵画を使って思考力とコミュニケーション力をアップする、VTS(Visual Thinking Strategy)という手法を使いました
VTSそのものは、京都造形芸術大学 アートコミュニケーション研究センターで連続セミナーが開催されていますが、私はキャリア形成や、実際の仕事に活かせるような内容にアレンジしています
コミュニケーションのズレその1:同じ物を見ているのに、見えているものは違う
最初に参加者さんに、今回題材として使う絵画(レディー・ジェイン・グレイの処刑)を印刷したものを渡しました
この時は、絵画のタイトルもどんな内容の絵かも一切お伝えしてません
ただ、絵だけを渡して最初のワークをやってもらいました
この絵をよーく見て、絵に何が描かれているのか見つけてください
脳トレ問題だと、絵の中に何か仕掛けのようなものがありますが、これは脳トレじゃないので、タネも仕掛けもありません(笑)
ただ、絵に描かれいているものを見つけるだけです
ひとりひとり、絵に何が描かれているかを見つけた後は、それを全員でシェア
レディー・ジェイン・グレイの処刑というタイトルを知っていた人も、この絵がどういう絵なのか、背景を知っている人もいなかったので、全員同じ条件です
一斉に配布された同じ絵を同じ時間見てもらって、何が描かれているかを見つける
同じ答えが出るのが当たり前と思うかもしれません
でも、これが全然そうはならなかったんですね
- 白い洋服を着て目隠しされている女の人が描かれている
- 赤いタイツを着た男の人が斧を持っている
- 藁が敷かれれている
こんな風にパッと見て分かるものは、全員「うん、うん」って頷くんです
でも・・・
- 赤いタイツの人の肩にはワッペンが付いています
- 真ん中の男性の後頭部は髪の毛が薄いです
細かい部分になると、気付いた人と気付かなかった人に分かれてきます
はい!ここがコミュニケーションがズレる要因のひとつですね
同じ物を(今回は同じ絵画)を見ているのに、見えているものが違う
描かれているものは全員一緒です
でも、人は見たいものしか見ないので、「描かれているものが見えていない」ということが起こります
どれが見えていて、どれが見えていないかは、人それぞれなので分かりません
だから、「確認する」ということがとっても大事
ここにこういうものが描かれていますよね
あなたはここを飛ばしてしまったけれど、ほら、ここにはこんなものも描かれているんですよ
この作業を飛ばして「同じものが見えているはずだ」で進めるから、ズレるのです
昨日の記事でも書きましたが、「〜はず」が多ければ多いほど、コミュニケーションはうまくいきません
コミュニケーションのズレその2:全体像を共有していない
どんなものが描かれているかを一通りシェアした後、私はこう聞きました
ねぇ、誰も『この絵には5人の人が描かれています』って言わなかったけど、どうして?
誰も明確には答えてくれなかったけれど、一瞬、顔が「はっ」となったよね
これもコミュニケーションがズレる要因のひとつ
絵を見れば5人の人が描かれているのは一目瞭然なんだけど、全体像より先に細かなところに目がいってしまうのね
さらに参加者のお一人が
「『この絵をよーく見て』と言われたから、細部に目がいきました」と話してくれました
そう、伝える側のひとことで、物の見方が変わっちゃうのね
これってね、仕事を依頼する時によく起こるコミュニケーションのズレ
例えば、資料の作成を依頼するとします
仕事の依頼が上手な人は、必ず
- その資料は何のために使うのか
- 誰に向かって作るのか
- どういう意味合いがあるのか
- 何を重視して欲しいのか
仕事の全体像をきちんと説明します
フィードバックをする時にも、この点を確認しながら進めます
でも、仕事の依頼が下手な人は、全体像を共有しないんです
ただ、「◯◯の資料を作って」とだけ言うんですよね
何のために作るのかも、誰のための資料なのかも、きちんと説明してくれない。頼んだ本人ですら、それが分かっていないという致命的な場合も・・・
その資料の全体像を依頼する人と、依頼される人が共有出来ていない場合、何度作り直しても良いものはできません
そして、たいてい「あぁ、もう!誰かに頼んでもちゃんとやってくれない!!!自分でやった方が早い」となって、全ての仕事を自分で抱えるようになってきます
これは、若かりし頃の自分自身にも当てはまります
「どうして出来ないんだろう?」
「どうして言ったとおりにやってくれないんだろう?」
本気でそう思っていたし、自分のコピー人形が3体ぐらい欲しいと思っていましたね
でも、今振り返って考えてみると、やっぱりあの頃の私は、後輩や部下と「全体像」を共有してなかったんです
細かな部分が不要だとは言いません
でも、全体像が見えていない、共有できていない状態で細部の話ばかりをするのは不毛です
何だかズレているなと思う時は、全体像が共有できているか、同じ物が見えているかを確認してみてください
コミュニケーションって、絶対に面倒臭がっちゃダメです
「時間がない」と言って適当に済ます人も多いけれど、その後のリカバリーに時間と労力を費やすことを考えたら、最初に丁寧にコミュニケーションを取ることの方が、ずっと効率的だし効果的ですよね
VTSを利用したワークショップ、この後も参加者さんの「今、初めて知りました」「うまくいかなかったのは、◯◯が原因だったんですね」が続きます
長くなったので、いくつかの記事に分けて書きますね